「できない」を表す言葉
「できない」は、日常会話で非常によく使う言葉である。
「今日は行けない」
「私にはできない」
「時間がなくて終わらせられない」
「そんなことは不可能だ」
これらはすべて広い意味では「できない」と表現できる。しかし、できない理由は同じではない。
能力がないのか、状況的に無理なのか、難しいだけなのか、禁止されているのか、そもそも実現する可能性がないのかによって、「できない」の中身は変わる。
英語でも、すべてを単純に can’t で表すわけではない。unable、impossible、difficult、not allowed to など、できない理由によって表現が分かれている。
では、そもそも「できない」とはどのような概念なのだろうか。
「できない」に関係する日本語
「できない」には目立った漢字表記の違いがないため、まず周辺の日本語から整理してみよう。
| 日本語 | どのような「できない」なのか |
|---|---|
| できない | 能力・状況・条件などにより実現できない |
| 無理 | 現実的に実行するのが難しい |
| 難しい | できる可能性はあるが容易ではない |
| 不可能 | 実現することができない |
| 苦手 | 能力や得意不得意の面でうまくできない |
| わからない | 知識・理解が足りずできない |
| 間に合わない | 時間の制約によってできない |
| 手が回らない | 忙しさなどで対応できない |
| 許されない | 規則・立場などによってできない |
| 禁止されている | ルールによってしてはいけない |
| 仕方がない | 別の選択肢を取ることができない |
| お手上げ | 自分ではどうにもできない |
| できそうにない | 実現可能性が低いと判断している |
| ありえない | 起こる可能性がない、または極めて低い |
このように、日本語の「できない」は単なる「能力の否定」ではない。
能力・難易度・状況・時間・規則・可能性など、さまざまな理由によって「できない」が生まれる。
「できない」の概念はどこへ枝分かれするのか
「できない」を概念で整理すると、次のように分けられる。
| 概念 | 日本語表現 | できない理由 |
|---|---|---|
| 能力 | できない・苦手 | 能力や技能が足りない |
| 難易度 | 難しい | 実行するのが容易ではない |
| 現実性 | 無理 | 現在の条件では実現しにくい |
| 可能性 | 不可能・ありえない | そもそも実現できない |
| 状況 | できない・手が回らない | 外部の事情が許さない |
| 時間 | 間に合わない | 時間が足りない |
| 知識 | わからない | 方法や答えを知らない |
| 規則 | 許されない・禁止されている | ルールが許さない |
| 見込み | できそうにない | 実現する可能性が低い |
重要なのは、「できない」という結果だけを見るのではなく、なぜできないのかを見ることである。
「できない」と「無理」|能力ではなく現実的な限界
「できない」は非常に広い言葉である。
「私は泳げない」であれば能力の問題かもしれないし、「今日は会えない」であれば予定の問題かもしれない。
一方、「無理」は現在の条件を考えると実現が難しいという感覚が強い。
「今日中に100ページ書くのは無理だ」
これは「100ページを書く能力がない」という意味ではない。時間などの条件を考えると現実的ではないのである。
つまり、
できない → 実現できないという広い結果
無理 → 条件を考えると現実的ではない
という違いがある。
「できない」と「難しい」|不可能なのか、難易度が高いのか
「難しい」は「できない」と同じではない。
「この問題は難しい」と言っても、解けないとは限らない。
時間をかけたり、知識を増やしたり、助けを借りたりすればできる可能性がある。
「できない」は結果に注目するのに対して、「難しい」は実現までのハードルが高いことに注目する言葉である。
そのため、
「今日中に完成させるのは難しい」
は、まだ完成できる可能性を残している。
「今日中には完成できない」
になると、話し手は実現できないと判断している。
「できない」と「不可能」|程度ではなく可能性の否定
「不可能」は「できない」より強い表現である。
「私にはできない」は、別の人ならできるかもしれない。
しかし、
「現在の技術では不可能だ」
という場合は、特定の人の能力ではなく、そのこと自体が実現できないという判断になる。
したがって、
できない → 人・状況によって変わり得る
不可能 → 実現可能性そのものを否定する
という違いがある。
ただし日常会話の「絶対無理」「そんなの不可能」のように、感情的な強調として使われることもある。
「できない」と「苦手」|能力がないとは限らない
「英語ができない」と「英語が苦手」も同じではない。
「英語が苦手」は、得意ではないという意味であり、英語をまったく使えないことを意味しない。
「料理が苦手だ」
と言う人でも料理はできるかもしれない。
つまり「苦手」は、できる・できないの二択ではなく、得意さの程度を表している。
「できない」と言い切るよりも柔らかい表現として使われることも多い。
「できない」と「間に合わない」|時間が原因のできない
能力があっても、時間が足りなければできない。
「今日中には終わらせられない」
「締め切りに間に合わない」
この場合、問題は能力ではなく時間である。
時間を増やせばできる可能性があるため、「不可能」とも違う。
「できない」という大きな概念の中に、時間という条件による制約があると考えるとわかりやすい。
「できない」と「許されない」|能力ではなくルール
「できない」にはもう一つ重要な意味がある。
「ここでは写真を撮ることができない」
この文は、カメラが壊れているという意味にも、規則で禁止されているという意味にもなり得る。
「撮影は禁止されている」とすれば、理由が明確になる。
つまり、
能力的にできない
と
規則上できない
はまったく別の概念である。
この違いは英語を考えるときにも重要になる。
ここまでの日本語を概念で整理すると
| 概念 | 日本語表現 |
|---|---|
| 広い意味での不可能 | できない |
| 能力不足 | できない・苦手 |
| 難易度が高い | 難しい |
| 現実的ではない | 無理 |
| 実現可能性がない | 不可能 |
| 時間が足りない | 間に合わない |
| 余裕がない | 手が回らない |
| 知識がない | わからない |
| 規則が許さない | 許されない・禁止されている |
| 見込みが低い | できそうにない |
| 対処不能 | お手上げ |
日本語だけでも、「できない」という世界がかなり細かく枝分かれしていることがわかる。
ここから英語へ進んでみよう。
英語では「できない」をどう表すのか?
英語でも「できない」の理由によって表現が変わる。
| 日本語のイメージ | 英語 | コアイメージ |
|---|---|---|
| できない | can’t / cannot | 能力・状況などからできない |
| することができない状態 | be unable to | 実行する能力・状態にない |
| 不可能 | impossible | 実現することが不可能 |
| 難しい | difficult / hard | できるがハードルが高い |
| うまくできない | struggle to | 苦労しながら取り組む |
| できそうにない | unlikely to | 起こる・実現する可能性が低い |
| 許されていない | not allowed to | 規則上できない |
| 時間的にできない | not have time to | 時間がない |
ここでも「できない=can’t」と一対一で考えないことが重要である。
日本語で「なぜできないのか」を考えてから英語を見ると、表現の違いが理解しやすくなる。
can’t / cannot|能力や状況から「できない」
can’t は cannot の短縮形で、「できない」を表す最も基本的な表現である。
能力だけでなく、状況による「できない」にも使える。
I can’t swim.
私は泳げない。
これは能力についての「できない」である。
一方、
I can’t meet you today.
今日はあなたに会えない。
こちらは「会う能力がない」のではない。予定などの事情によって会えないのである。
このように can’t は、日本語の「できない」と同じくかなり広い範囲をカバーする。
unable|できる状態にない
unable は「〜することができない状態にある」という表現である。
基本的には be unable to + 動詞 の形を取る。
I was unable to attend the meeting.
私はその会議に出席できなかった。
意味としては、
I couldn’t attend the meeting.
とも言える。
ただし be unable to のほうがやや硬く、文章や説明的な場面でも使いやすい。
コアイメージは、何らかの理由によって実行可能な状態にないことである。
impossible|実現する可能性がない
impossible は「不可能な」を意味する。
人の能力というより、行為や状況そのものの実現可能性に焦点を当てやすい。
It is impossible to finish this in five minutes.
これを5分で終わらせるのは不可能である。
I can’t finish this in five minutes.
私はこれを5分では終わらせられない。
後者は「私」を中心にしている。
前者は「5分で終わらせること」自体を不可能と判断している。
この視点の違いが can’t と impossible を理解するポイントである。
difficult / hard|できないのではなく「難しい」
difficult や hard は「できない」ではなく「難しい」を表す。
It is difficult to explain this clearly.
これをわかりやすく説明するのは難しい。
この文は「説明できない」とは言っていない。
説明は可能だが、簡単ではないのである。
hard は日常会話でも非常によく使われる。
It’s hard to say no.
断るのは難しい。
「できない」と「難しい」を区別すると、英語でも can’t と hard / difficult の使い分けが見えやすくなる。
struggle to|できるかもしれないが苦労している
「できない」に近い感覚を表す表現として struggle to も重要である。
これは完全な不可能ではなく、うまくできず苦労しているという状態を表す。
I struggle to remember names.
私は人の名前を覚えるのが苦手である。
「名前をまったく覚えられない」のではない。
覚えることに苦労しているのである。
日本語では「苦手だ」「なかなかできない」「うまくできない」などに近い。
規則や状況による「できない」を英語で表す
「できない」の原因が能力ではない場合、英語では原因を明確にした表現が使える。
| 概念 | 英語表現 | 例 |
|---|---|---|
| 規則でできない | not allowed to | You are not allowed to park here. |
| 時間がなくてできない | not have time to | I don’t have time to cook. |
| 方法がわからずできない | not know how to | I don’t know how to fix it. |
| 状況的に無理 | can’t / be unable to | I can’t go today. |
| 苦労してできない | struggle to | I struggle to wake up early. |
| 可能性が低い | be unlikely to | It is unlikely to happen. |
たとえば、
I can’t use this computer.
だけでは、「使い方を知らない」「故障している」「使用を禁止されている」など複数の意味が考えられる。
原因を明確にするなら、
I don’t know how to use this computer.
このパソコンの使い方がわからない。
I’m not allowed to use this computer.
私はこのパソコンを使うことを許可されていない。
のように表現できる。
「できない」をそのまま訳すのではなく、できない理由まで考えることが重要なのである。
「できない」の概念地図
「できない」の世界を概念として整理すると、次のようになる。
できない
├─ 能力的にできない
│ └─ can’t / be unable to
│
├─ 難しくてうまくできない
│ └─ difficult / hard / struggle to
│
├─ 条件的に無理
│ └─ can’t / be unable to
│
├─ そもそも不可能
│ └─ impossible
│
├─ 時間がなくてできない
│ └─ not have time to
│
├─ 方法がわからずできない
│ └─ not know how to
│
├─ 規則によってできない
│ └─ not allowed to
│
└─ 実現しそうにない
└─ unlikely to
この地図を見ると、can’t は「できない」の世界の一部ではあるが、すべてではないことがわかる。
日本語で「できない」と言っている部分をもう一段掘り下げることで、英語の選択肢が見えてくる。
まとめ|「なぜできないのか」を考える
「できない」は非常に広い日本語である。
そのため、英語を考えるときには「できない=can’t」と覚えるだけでは足りない。
| どのような「できない」か | 日本語 | 英語の代表例 |
|---|---|---|
| 広い意味でできない | できない | can’t / cannot |
| できる状態にない | できない | be unable to |
| ハードルが高い | 難しい | difficult / hard |
| 現実的ではない | 無理 | can’t / unrealistic |
| 実現できない | 不可能 | impossible |
| うまくできない | 苦手・苦労する | struggle to |
| 時間がない | 間に合わない・できない | not have time to |
| 方法を知らない | わからなくてできない | not know how to |
| 規則が許さない | 許されない | not allowed to |
| 実現の見込みが低い | できそうにない | unlikely to |
「できない」という結果だけを見るのではなく、
能力がないのか。
難しいのか。
条件的に無理なのか。
時間がないのか。
禁止されているのか。
そもそも不可能なのか。
というように、「なぜできないのか」を考える。
そうすると、日本語の「できない」の中に隠れていた概念が見え、その先に can’t、unable、impossible、difficult、struggle、not allowed to などの英語表現が自然につながってくるのである。