「病気」を表す言葉
「病気」は、日常生活でも医療の場でもよく使われる言葉である。
「病気になった」
「病気を患っている」
「今日は体調が悪い」
「何かの病気かもしれない」
このように、日本語ではかなり広い範囲を「病気」という一語で表せる。
しかし、その周辺を見ると、「病む」「患う」「具合が悪い」「体調不良」「疾患」「症状」「持病」など、少しずつ異なる言葉が存在する。
そして英語でも、「病気」に当たる言葉は一つではない。
disease、illness、sickness などがあり、それぞれが同じものを別の角度から見ている。
では、そもそも「病気」とはどのような概念なのだろうか。
まず日本語の「病気」の世界を整理し、そこから英語がどのようにこの世界を切り分けているのかを見ていこう。
「病気」と「疾病」「疾患」|日常語と医療で使われる言葉
「病気」には、「見る・観る」のような同じ読みの漢字違いはほとんどない。
一方、近い意味を持つ漢語として「疾病」「疾患」がある。
| 表現 | 中心となる概念 | 使用例 |
|---|---|---|
| 病気 | 心身の健康が損なわれた状態を広く表す | 病気になる |
| 疾病 | 病気をやや専門的・制度的に表す | 疾病の予防 |
| 疾患 | 医学的に扱われる病的な状態 | 心疾患 |
| 病 | 「病気」のやや硬い表現 | 病を患う |
日常会話なら「病気」がもっとも自然である。
「疾病」は公衆衛生、保険、統計などで使われやすく、「疾患」は医学的に分類された病的状態について使われることが多い。
ただし、これらに絶対的な境界線があるわけではない。文脈によって重なる部分も大きい。
「病気」に関係する日本語
「病気」を中心にすると、その周囲にはさまざまな表現が広がっている。
| 日本語 | どのような「病気」の世界なのか |
|---|---|
| 病気 | 健康ではない状態を広く表す |
| 病む | 心や体が病的な状態になる |
| 患う | 病気を抱える |
| かかる | ある病気になる |
| 発症する | 病気の症状が現れ始める |
| 疾患 | 医学的に扱われる病的状態 |
| 体調不良 | 体の調子がよくない |
| 具合が悪い | 本人が不調を感じている |
| 症状 | 病気などによって現れる変化 |
| 持病 | 継続的に抱えている病気 |
| 慢性疾患 | 長期間続く疾患 |
| 急病 | 急に起こった病気 |
| 感染症 | 病原体の感染によって起こる病気 |
| 重病 | 重い病気 |
| 軽い病気 | 程度が比較的軽い病気 |
| 回復する | 病気や不調から健康な状態へ戻る |
ここで重要なのは、「病気そのもの」と「病気を経験している状態」を分けて考えることである。
たとえば「肺炎という病気」と「肺炎で具合が悪い」は、同じ出来事を違う角度から見ている。
この違いが、英語の disease と illness などを理解する手がかりになる。
「病気」の概念はどこへ枝分かれするのか
「病気」の周辺表現は、いくつかの軸で整理できる。
| 概念の軸 | 主な日本語 |
|---|---|
| 病的な状態そのもの | 病気・疾患・疾病 |
| 病気になること | 病気になる・かかる・発症する |
| 病気を抱えること | 患う・持病がある |
| 本人が感じる状態 | 具合が悪い・体調が悪い・しんどい |
| 現れている変化 | 症状 |
| 続く期間 | 急病・慢性疾患・持病 |
| 原因による分類 | 感染症・遺伝性疾患など |
| 重さ | 軽い病気・重病 |
| 病気から戻ること | 治る・回復する |
つまり、「病気」は一つの物体のような概念ではない。
何が起きているのか、本人がどう感じているのか、医学的に何と判断されているのかによって、言葉が変わってくる。
「病気」と「体調不良」|病気なのか、単に調子が悪いのか
「病気」と「体調不良」は重なるが、同じではない。
「病気」は何らかの病的状態を指す。
一方、「体調不良」は原因を特定せず、「いつもの健康な状態ではない」ということに焦点を当てた表現である。
「今日は少し体調が悪い」と言っても、必ずしも何らかの病気と診断されているわけではない。
たとえば、
「今日は体調が悪いので休む」
は自然である。
これを、
「今日は病気なので休む」
と言うと、より明確に病気になっている印象が強くなる。
「病気」と「体調不良」の違いは、英語で disease と sick / ill などを考えるときにも重要になる。
「病気」と「疾患」|日常的な状態か、医学的な対象か
「病気」は日常語として非常に広い。
一方、「疾患」は医学的な文脈で使われやすい。
「父は病気で入院している」
は日常的な言い方である。
「心血管疾患のリスクを調べる」
となると、病的状態を医学的な対象として分類している。
そのため、「疾患」は「本人がつらい」という感覚よりも、「どのような病的状態が存在するか」に焦点が当たりやすい。
この考え方は英語の disease に近い部分がある。
「病気になる」と「病気にかかる」|状態の変化か、特定の病気への罹患か
「病気になる」は非常に広い表現である。
「最近、病気になった」
と言えば、健康だった人が病気の状態になったことを表せる。
「病気にかかる」は、より「ある病気に罹患する」という意味になりやすい。
「インフルエンザにかかった」
「感染症にかかった」
などが自然である。
つまり、
病気になる → 健康から病気へ
病気にかかる → 特定の病気を得る
という視点の違いがある。
「病気にかかる」と「発症する」|病気を持つことと症状が現れること
「かかる」と「発症する」も完全には同じではない。
「発症する」は、病気に伴う症状や病的状態が実際に現れ始めることに焦点がある。
そのため、原因となるものが体内に存在していても、まだ発症していないという状況を考えることができる。
たとえば、
「感染しても必ず発症するとは限らない」
という表現が可能である。
「かかる」が病気になることを広く表すのに対し、「発症する」は病気が表面化する時点に焦点を当てた言葉である。
「病気」と「症状」|原因となる状態か、現れている変化か
「病気」と「症状」も区別しておきたい。
発熱、咳、痛み、吐き気などは、それ自体が必ずしも病気の名前ではない。
病気などによって現れる「症状」である。
たとえば、
「咳という症状がある」
「肺炎という病気である」
というように考えられる。
一つの病気から複数の症状が出ることもあれば、同じ症状がさまざまな病気で現れることもある。
したがって、
病気 → 体の中で起きている病的な状態
症状 → その結果として本人や周囲が認識する変化
という違いがある。
「病気」と「持病」|今の病気か、継続して抱えている病気か
「持病」は、その人がある程度継続して抱えている病気を表す。
一時的な風邪について、
「風邪が持病である」
とは通常言わない。
一方で、長期間にわたって付き合っている病気については、
「持病の治療を続けている」
などと言える。
「病気」が広い概念なのに対し、「持病」にはその人が継続的に抱えているという時間的な要素が加わっている。
ここまでの日本語を概念で整理すると
ここまでの日本語をまとめると、「病気」の世界は次のように整理できる。
| 概念 | 日本語表現 |
|---|---|
| 病的状態を広く表す | 病気 |
| 医学的な病的状態 | 疾患・疾病 |
| 不調を感じる | 体調不良・具合が悪い |
| 病気になる | 病気になる・かかる |
| 病気が現れる | 発症する |
| 病気を抱える | 患う |
| 病気による変化 | 症状 |
| 長く抱える | 持病・慢性疾患 |
| 急に起こる | 急病 |
| 元の状態へ戻る | 治る・回復する |
ここまでで重要なのは、「病気」という日本語自体がかなり広いことである。
では、英語ではこの世界をどのように表すのだろうか。
英語では「病気」をどう表すのか?
英語では、日本語の「病気」に関係する概念を複数の言葉で表す。
代表的なのが disease、illness、sickness である。
さらに、「病気である」という状態なら ill や sick、「医学的な状態」であれば condition、「症状」であれば symptom などへ広がっていく。
| 日本語のイメージ | 英語 | コアイメージ |
|---|---|---|
| 病気・疾患 | disease | 身体・精神の機能に異常がある病的状態 |
| 病気・病気である状態 | illness | 病気であること・病気の経験 |
| 病気・具合の悪さ | sickness | 病気・具合が悪い状態 |
| 病気である | ill | 健康ではない |
| 具合が悪い | sick | 病気・不調の状態 |
| 医学的な状態 | condition | その人が抱える状態 |
| 症状 | symptom | 病気などによって現れる徴候・自覚症状 |
| 障害・異常 | disorder | 正常な機能や状態が乱れていること |
ただし、この表を「病気=disease」「体調不良=sickness」のような一対一対応として覚えるべきではない。
実際には意味が重なり、地域差や文脈による使い分けもある。
大切なのは、それぞれが「病気」のどの側面に焦点を当てているかを見ることである。
disease|病的な状態そのものに焦点を当てる
disease の中心には、身体や精神の正常な機能が損なわれた病的な状態という考え方がある。
医学的に病気を分類したり、原因や治療を論じたりするときに使われやすい。
日本語では「病気」「疾患」「疾病」などになり得る。
Heart disease is a major health problem.
心疾患は大きな健康問題である。
The disease affects the lungs.
その病気は肺に影響を及ぼす。
disease は「本人がどう感じているか」よりも、病的状態そのものを見る方向に寄りやすい。
そのため、病名や医学的な分類との相性がよい。
illness|病気であること・病気を経験している状態
illness は「病気であること」を表す広い言葉である。
disease が病的状態そのものに焦点を当てやすいのに対し、illness は人が病気である状態や、その経験を表す方向へ広がりやすい。
日本語では「病気」「病気であること」「体調を崩している状態」などになり得る。
He returned to work after a long illness.
彼は長い闘病のあと仕事に復帰した。
Her illness kept her at home for several weeks.
彼女は病気のため数週間家で過ごした。
ここでは「どの病気なのか」より、「その人が病気の状態にあった」という部分が重要である。
sickness|病気・具合が悪い状態
sickness も「病気」を表すが、illness と意味が大きく重なる。
文脈によっては「具合が悪いこと」「病気で休むこと」など、日常的な不調に近い感覚でも使われる。
The sickness spread through the school.
その病気は学校中に広がった。
また、sickness は複合語でもよく現れる。
- motion sickness:乗り物酔い
- altitude sickness:高山病
- morning sickness:つわり
したがって、単純に「sickness=軽い病気」と覚えるのも適切ではない。
illness と重なりながら、文脈によって「病気」「不調」「吐き気を伴う状態」などへ意味が広がる語である。
ill|健康ではない状態にある
ill は名詞ではなく、主に「病気である」「具合が悪い」という状態を表す形容詞である。
She has been ill for a week.
彼女は一週間病気である。
disease が「病気そのもの」を指せるのに対し、ill は人の状態を表す。
つまり、
a disease → 病気・疾患
be ill → 病気である
という違いがある。
特にイギリス英語では、日常的に「病気である」という意味で ill が広く使われる。
sick|病気・不調を感じている
sick も「病気である」「具合が悪い」を表す重要な形容詞である。
I feel sick today.
今日は具合が悪い。
My son is sick, so I’m staying home today.
息子が病気なので、今日は家にいる。
特にアメリカ英語では、「病気である」という一般的な意味で sick がよく使われる。
一方、文脈や地域によっては「吐き気がする」という意味になることもある。
そのため sick も、日本語の一語に固定して覚えるのではなく、
健康な状態から外れている
という大きなイメージから理解するとよい。
condition・disorder・symptom|「病気」の周辺にある英語
「病気」の世界は disease、illness、sickness だけではない。
日本語で「疾患」「障害」「症状」などへ枝分かれしたように、英語にも周辺語がある。
| 英語 | コアイメージ | 日本語になり得る表現 |
|---|---|---|
| condition | その人が置かれている医学的状態 | 病気・疾患・状態 |
| disorder | 正常な機能・状態の乱れ | 障害・疾患 |
| symptom | 本人などに現れる病気の兆候 | 症状 |
| infection | 病原体が体内に入り増殖すること | 感染・感染症 |
| chronic | 長期間続く | 慢性の |
| acute | 急に起こる・短期間で進む | 急性の |
たとえば symptom は disease そのものではない。
Fever is a common symptom of the flu.
発熱はインフルエンザでよくみられる症状である。
ここでは、
flu → 病気
fever → 症状
という関係になっている。
日本語側で「病気」と「症状」を区別できれば、英語側の disease と symptom の関係も理解しやすくなる。
「病気」の概念地図
「病気」を中心に、日本語と英語のつながりを整理すると次のようになる。
病気
├─ 病的状態そのもの
│ └─ 病気・疾患・疾病 → disease
│
├─ 病気であること・病気の経験
│ └─ 病気・闘病 → illness
│
├─ 病気・不調という状態
│ └─ 病気・具合の悪さ → sickness
│
├─ 人が病気である
│ ├─ 病気である → ill
│ └─ 具合が悪い・病気である → sick
│
├─ 医学的な状態
│ ├─ 状態・疾患 → condition
│ └─ 機能などの乱れ → disorder
│
└─ 病気によって現れるもの
└─ 症状 → symptom
このように見ると、英単語がばらばらに存在しているわけではないことが分かる。
同じ「病気」という世界を、病的状態そのものを見るのか、人が病気であることを見るのか、本人の不調を見るのか、そこから現れる症状を見るのかによって言葉が変わっているのである。
まとめ|「病気」のどの部分を見ているのかを考える
日本語の「病気」は非常に広い。
そのため、「病気は英語で何と言うのか」と考えるだけでは、disease、illness、sickness、ill、sick などの違いが分かりにくくなる。
| 見ているもの | 日本語 | 主な英語 |
|---|---|---|
| 病的状態そのもの | 病気・疾患 | disease |
| 病気であること・経験 | 病気・闘病 | illness |
| 病気・不調 | 病気・具合の悪さ | sickness |
| 人の病気の状態 | 病気である | ill / sick |
| 医学的な状態 | 疾患・状態 | condition |
| 機能などの乱れ | 障害・疾患 | disorder |
| 現れている変化 | 症状 | symptom |
まず日本語で、
「病気そのものなのか」
「病気である人の状態なのか」
「単に具合が悪いのか」
「病気によって現れた症状なのか」
と考えてみる。
そうすると、disease、illness、sickness などが単なる「病気の類義語」ではなく、それぞれ異なる方向から「病気」という概念世界を切り取っていることが見えてくる。
「病気=disease」と一語で覚えるのではなく、「病気の何を表しているのか」を考える。
その視点を持つことで、場面に合った英語が自然に見えてくるのである。