「始める」を表す言葉
「始める」は、日常生活から仕事まで非常に広く使われる言葉である。
「勉強を始める」「仕事を始める」「話を始める」「店を始める」「新しい制度を始める」のように、どれも「それまで行われていなかったことを行うようになる」という点では共通している。
しかし、日本語には「開始する」「取りかかる」「着手する」「立ち上げる」「始動する」「創業する」など、「始める」の周辺に多くの表現がある。
英語でも同様である。
start、begin、launch、initiate、commenceなどがあるが、これらは単純に「始める」の言い換えではない。
重要なのは、
何かを始める
↓
どのような始まりなのか
↓
それに合った英語を選ぶ
という流れで考えることである。
では、そもそも「始める」とはどのような概念なのだろうか。
「始める」と「初める」|漢字による違い
「はじめる」は通常「始める」と書く。
「始」は、物事が動き出すことを表す。一方、「初」は「最初」「初めて」のように、時間的に最初であることに焦点がある。
| 表記 | 中心となる概念 | 使用例 |
|---|---|---|
| 始める | 物事を開始する | 勉強を始める |
| 初め | 最初の時点・初期 | 年の初め |
| 初めて | 最初の経験 | 初めて海外へ行く |
現代日本語では、動詞として何かを開始する場合は基本的に「始める」を使う。
「初める」という表記を見かけることもあるが、一般的な文章では「始める」と考えてよい。
「始める」に関係する日本語
「始める」の周辺には、「開始のしかた」によってさまざまな表現がある。
| 日本語 | どのような「始める」なのか |
|---|---|
| 始める | もっとも広い開始 |
| 始まる | 物事が開始する |
| 開始する | やや客観的・形式的に始める |
| 取りかかる | 実際の作業に入る |
| 着手する | 計画していた仕事などに手をつける |
| 手をつける | 何かを実際にやり始める |
| 乗り出す | 新しい活動へ積極的に進み出る |
| 立ち上げる | 組織・事業・企画などを新しく作って動かす |
| 始動する | 機械・計画・組織などが動き始める |
| 発足する | 組織や制度などが正式に活動を始める |
| 創業する | 事業を新しく始める |
| 開業する | 店・医院・事業などを開く |
| 開催する | 会議・大会・イベントなどを行う |
| 開始させる | 別のものを始まる状態にする |
| 再開する | 一度止まったものを再び始める |
つまり「始める」という一語の周囲には、「作業」「事業」「組織」「イベント」「再開」など複数の方向への広がりがある。
「始める」の概念はどこへ枝分かれするのか
「始める」を中心にすると、概念は次のように整理できる。
| 違いの軸 | 日本語表現 | 注目していること |
|---|---|---|
| 主体性 | 始める / 始まる | 誰かが始めるか、物事が始まるか |
| 形式性 | 始める / 開始する | 日常的か、客観的・形式的か |
| 行動への移行 | 始める / 取りかかる | 開始そのものか、実際に作業へ入るか |
| 計画性 | 始める / 着手する | 一般的な開始か、計画した仕事への着手か |
| 新規性 | 始める / 立ち上げる | 行為を始めるか、新しい仕組みを作るか |
| 活動性 | 始める / 始動する | 開始するか、動き出すか |
| 組織性 | 始める / 発足する | 一般的な開始か、組織などの正式な開始か |
| 事業性 | 始める / 創業する・開業する | 一般的な開始か、事業の開始か |
| 継続との関係 | 始める / 再開する | 最初の開始か、止まった後の開始か |
このように見ると、「始める」は単なる一点ではない。
止まっている状態から、何かが動いている状態へ移ることが「始める」の中心にあり、その「動き出し方」によって表現が分かれているのである。
「始める」と「始まる」|開始させるか、開始するか
「始める」と「始まる」は非常に近いが、視点が異なる。
「始める」は、誰かが何かを開始する表現である。
- 私は勉強を始めた。
- 会社は新しいサービスを始めた。
一方、「始まる」は物事そのものを主語にする。
- 授業が始まった。
- 試合が始まった。
つまり、
人・主体 → 何かを始める
に対して、
物事 → 始まる
という違いである。
この違いは英語のstartやbeginを理解するときにも重要になる。
「始める」と「開始する」|日常的な開始か、客観的な開始か
「開始する」は「始める」よりも硬い表現である。
「勉強を始める」は自然だが、「勉強を開始する」とすると事務的な響きが強くなる。
一方、
- 営業を開始する
- 販売を開始する
- 調査を開始する
- 運用を開始する
などでは「開始する」が自然である。
意味そのものが大きく違うのではなく、どのような場面から開始を見るかが違うのである。
「始める」と「取りかかる」|開始するか、実際の作業に入るか
「取りかかる」には、実際に手を動かし始める感覚がある。
「宿題を始める」なら単純な開始である。
「宿題に取りかかる」とすると、それまで別のことをしていた人が、ようやく机に向かって作業へ入ったような感覚になる。
- 夕食後、宿題に取りかかった。
- ようやく部屋の掃除に取りかかった。
「始める」よりも「行動への移行」が強く意識される言葉である。
「始める」と「着手する」|一般的な開始か、計画した仕事への第一歩か
「着手する」も「取りかかる」に近いが、より硬い表現である。
特に仕事、工事、調査、計画などで使われる。
- 新しい研究に着手する。
- 改修工事に着手する。
- 問題の調査に着手する。
単純に「始める」のではなく、ある課題や計画に正式に手をつけるという感覚が強い。
「始める」と「立ち上げる」|行動を始めるか、新しい仕組みを作るか
「立ち上げる」は、単に活動を始めるだけではない。
- 会社を立ち上げる
- プロジェクトを立ち上げる
- 新しいサイトを立ち上げる
- チームを立ち上げる
のように、それまで存在していなかった組織・仕組み・活動を作り、それを動かし始める意味を持つ。
そのため、「立ち上げる」は英語のlaunchと結びつきやすい領域である。
「始める」と「始動する」|開始するか、動き出すか
「始動する」の中心には「動き始める」というイメージがある。
もともとは機械などが動き出す場面と相性がよい。
- エンジンが始動する。
そこから意味が広がり、
- 新プロジェクトが始動する。
- 新体制が始動する。
のようにも使われる。
単なる時間的な開始よりも、システムや活動が実際に動き出すことに焦点がある。
「始める」と「再開する」|最初の開始か、もう一度の開始か
「再開する」は、一度行われていたものが中断したあと、再び動き始めることである。
- 勉強を再開する。
- 運転を再開する。
- 営業を再開する。
「始める」が「0から1への変化」だとすれば、「再開する」は「1から0になったものを再び1へ戻す」イメージである。
英語でも、この違いはstartだけではなくresume、restartなどに分かれていく。
ここまでの日本語を概念で整理すると
| 概念 | 日本語表現 |
|---|---|
| 一般的な開始 | 始める |
| 自然な開始 | 始まる |
| 形式的な開始 | 開始する |
| 作業への移行 | 取りかかる |
| 計画への着手 | 着手する |
| 新しい活動への進出 | 乗り出す |
| 新しい仕組みの開始 | 立ち上げる |
| 動き出す | 始動する |
| 組織の正式な開始 | 発足する |
| 事業の開始 | 創業する・開業する |
| 中断後の開始 | 再開する |
この整理を頭に入れてから英語を見ると、start、begin、launchなどが単なる類義語ではないことが分かりやすくなる。
英語では「始める」をどう表すのか?
では、英語では「始める」をどう表すのか。
代表的な表現を日本語側の概念から整理すると、次のようになる。
| 日本語のイメージ | 英語 | コアイメージ |
|---|---|---|
| 始める・始まる | start | 動き出す |
| 始める・始まる | begin | 始まりの地点に入る |
| 立ち上げる・開始する | launch | 新しいものを世に出して動かす |
| 開始する・着手する | initiate | 手続き・活動などを動かし始める |
| 正式に開始する | commence | 公式・形式的に開始する |
| 取りかかる | get started | 実際に始める |
| 再開する | resume | 中断したものを続ける |
| 再始動する | restart | もう一度最初から動かす |
もちろん、この表は「始める=start」「開始する=initiate」という一対一対応ではない。
日本語と英語では言葉の境界線が異なるためである。
重要なのは、「どのような開始なのか」を考えることである。
start|何かが動き出す
startは「始める」を表すもっとも基本的な英語の一つである。
コアイメージは、止まっていたものが動き出すことである。
行動、仕事、機械、イベントなど幅広いものに使える。
I started studying English last year.
私は昨年、英語の勉強を始めた。
The meeting starts at nine.
会議は9時に始まる。
She started the car.
彼女は車のエンジンをかけた。
人が何かをstartすることも、物事がstartすることもできる。
この「動き出す」という感覚がstartの強みである。
begin|始まりの地点に入る
beginも「始める」「始まる」を表す基本語である。
startとの意味の重なりは非常に大きい。
ただし、startには「動き出す」という感覚があり、beginはより純粋に始まりの地点に入ることに焦点を置きやすい。
The movie began at seven.
映画は7時に始まった。
She began to speak.
彼女は話し始めた。
Let’s begin the lesson.
授業を始めよう。
日常会話ではstartが広く使われる一方、beginは文章や少し改まった場面でも自然に使われる。
ただし、両者を完全に別物として覚える必要はない。かなり広い範囲で置き換え可能である。
launch|新しいものを世に出して動かす
launchは、単純に行動を開始するというより、新しいものを外へ向けて動かし始めるイメージを持つ。
もともとロケットや船などを「送り出す」意味があり、そこから新商品、サービス、事業、キャンペーンなどにも広がっている。
The company launched a new service.
その会社は新しいサービスを開始した。
They launched a new project last month.
彼らは先月、新しいプロジェクトを立ち上げた。
日本語では「始める」よりも、「立ち上げる」「開始する」「売り出す」などが自然になる場合が多い。
startよりも「新しいものを世に出す」という勢いを持った表現である。
initiate|意図して動きを開始させる
initiateは、ある活動・手続き・変化などを意図的に開始させる表現である。
startより硬く、制度、交渉、調査、手続き、変化などと相性がよい。
The company initiated an investigation.
会社は調査を開始した。
They initiated talks with the government.
彼らは政府との協議を開始した。
日常的な「勉強を始める」などには通常startやbeginのほうが自然である。
日本語の「開始する」「着手する」に近い領域を担う英語と考えると分かりやすい。
commence|正式に開始する
commenceはbeginやstartより形式的な表現である。
式典、業務、法的手続き、工事など、公式性の高い文脈で使われやすい。
Construction will commence next month.
工事は来月開始される。
The ceremony commenced at noon.
式典は正午に始まった。
日常会話で「勉強を始める」と言いたいだけならcommenceを使う必要はない。
日本語の「開始する」にも、日常的な「始める」とは違う硬さがある。それと似た違いが英語にも存在すると考えると理解しやすい。
「取りかかる」「再開する」などは英語でどう表すのか
「始める」の周辺世界まで広げると、startやbeginだけでは表せない概念が見えてくる。
| 日本語の概念 | 英語表現 | イメージ |
|---|---|---|
| さあ始める | get started | 実際に行動へ入る |
| ~し始める | start doing / begin doing | 行動が開始する |
| 取りかかる | get to work / start working on | 実際の作業へ入る |
| 着手する | begin work on / undertake | 仕事・課題に手をつける |
| 立ち上げる | launch / set up | 新しい活動・組織を作る |
| 乗り出す | embark on | 新しい活動へ踏み出す |
| 再開する | resume | 中断したものを続ける |
| 再始動する | restart | もう一度動かす |
たとえば、
Let’s get started.
さあ、始めよう。
では、「開始」という抽象的な時点よりも、「実際にやろう」という行動への移行が感じられる。
一方、
She resumed her studies.
彼女は勉強を再開した。
では、以前していた勉強が一度止まり、それを続けるという情報まで含まれている。
startとbeginだけでは見えない「始まり」の英語
日本語では「始める」と言えても、英語では場面によって別の動詞を選ぶことがある。
たとえば新しい会社なら、
start a company
会社を始める
とも言えるが、
set up a company
会社を設立する
のように「組織を作る」ことへ焦点を移すこともできる。
新商品なら、
launch a product
商品を発売する
となる。
新しい長期的な活動なら、
embark on a new project
新しいプロジェクトに乗り出す
という表現もある。
つまり英語では、「開始」という一点だけでなく、
動き出すのか
新しく作るのか
世に出すのか
仕事に取りかかるのか
中断したものを続けるのか
という違いによって言葉が選ばれるのである。
「始める」の概念地図
「始める」の世界を概念地図にすると、次のように整理できる。
始める
├─ 一般的に始める → start / begin
├─ 実際に取りかかる → get started / get to work
├─ 計画・手続きを開始する → initiate
├─ 正式に開始する → commence
├─ 新しいものを立ち上げる → launch / set up
├─ 新しい活動へ乗り出す → embark on
├─ 中断したものを再開する → resume
└─ もう一度動かす → restart
中心にあるのは、「まだ行われていない状態」から「行われている状態」への変化である。
そこから、「誰が始めるのか」「何を始めるのか」「どのように動き出すのか」によって概念が枝分かれしていく。
まとめ|「どのように始めるのか」を考える
| 概念 | 日本語 | 代表的な英語 |
|---|---|---|
| 一般的な開始 | 始める・始まる | start / begin |
| 行動への移行 | 取りかかる | get started |
| 計画的な開始 | 着手する | initiate / begin work on |
| 新しい仕組みの開始 | 立ち上げる | launch / set up |
| 新しい活動への進出 | 乗り出す | embark on |
| 正式な開始 | 開始する | commence |
| 中断後の開始 | 再開する | resume |
| 再び動かす | 再始動する | restart |
「始める」を見て、すぐにstartと置き換えるだけでは、「始まり」という概念の一部しか見えない。
日本語にも「開始する」「取りかかる」「着手する」「立ち上げる」「再開する」があるように、英語にもstart、begin、launch、initiate、resumeなどがある。
ばらばらの英単語として覚える必要はない。
まず中心に、
「まだ動いていないものが動き出す」
という「始める」の概念を置く。
そこから「普通に始めるのか」「実際に取りかかるのか」「新しいものを立ち上げるのか」「止まっていたものを再開するのか」と考えていけば、使う英語が自然に見えてくるのである。