「見る」と「見かける」の違い
「彼を見る」と「彼を見かける」は、どちらも目で相手をとらえる表現である。しかし、この二つは同じ「見る」ではない。
「彼を見た」と言えば、意識して彼を見た場合にも、たまたま彼が目に入った場合にも使える。一方、「彼を見かけた」には、たまたまその人の姿を目にしたという感覚がある。
さらに「見かける」の周辺には、「目に入る」「気づく」「見つける」「ちらっと見える」などの表現もある。英語では see / notice / spot / catch sight of / glimpse などが、この世界を少しずつ違った角度から表している。
今回は、日本語の「見る」と「見かける」の違いから、英語では「目に入った」という出来事をどのように切り分けているのかを考える。
「見る・見かける」を表す英語一覧
まず、今回扱う表現を一覧にすると次のようになる。
| 日本語のイメージ | 英語 | コアイメージ |
|---|---|---|
| 見える・目に入る | see | 視覚で対象をとらえる |
| 視線を向けて見る | look at | 意識して対象へ目を向ける |
| 見かける | see | 人や物を実際に目にする |
| ふと気づく | notice | 視界の中の存在・変化に気づく |
| 見つける・見つけて気づく | spot | 多くの中から対象を見つける |
| ふと姿を目にする | catch sight of | ふと視界に入る |
| ちらっと見える | glimpse / catch a glimpse of | 一瞬だけ視界に入る |
ポイントは、「見かける」に対応する特別な基本動詞が英語にあるわけではないことである。日本語では「見る」と「見かける」を分けるが、英語では see を中心に、どのように目に入ったのかによって別の表現へ広がっていく。
「見る」と「見かける」は何が違う?
まず日本語から考えてみよう。
昨日、駅で彼を見た。
昨日、駅で彼を見かけた。
どちらも自然である。しかし、「見かけた」のほうには「駅に彼がいて、その姿がたまたま目に入った」という偶然性が感じられる。
一方、「見た」は意味の範囲が広い。
彼の顔を見た。
映画を見た。
窓の外を見た。
駅で彼を見た。
このように、意識的に見る場合にも、目に入った場合にも使える。
| 見る | 見かける |
|---|---|
| 「目でとらえる」という広い表現 | 人や物の姿を目にする |
| 意識的な場合もある | 偶然性を感じやすい |
| じっくり見る場合にも使える | 存在を目にしたことが中心 |
| 対象を見る行為にも注目できる | 「そこにいた・あった」ことに注目する |
「見かける」は「見る」という行為そのものよりも、対象との視覚的な遭遇に近い言葉だと考えると分かりやすい。
see|目に入る・見かける
see は「見る」と覚えることが多いが、コアイメージは視覚によって対象をとらえることである。
I saw him at the station yesterday.
昨日、駅で彼を見かけた。
この文は、日本語では「彼を見た」とも「彼を見かけた」とも訳せる。
重要なのは、see 自体に「見かける」という特別な意味があるわけではないことである。「駅で彼を視覚的にとらえた」という状況を、日本語では自然に「見かけた」と表現しているのである。
I saw an old friend at the supermarket.
スーパーで昔の友人を見かけた。
このような偶然の遭遇では、日本語の「見かける」と see の相性がよい。
look at|意識して対象を見る
look at は see と異なり、自分から対象へ視線を向けることを表す。
I looked at him.
私は彼を見た。
これは「彼を見かけた」とはかなり違う。自分の意志で彼の方向へ視線を向けている。
| see | look at |
|---|---|
| 視覚で対象をとらえる | 対象へ視線を向ける |
| 目に入る | 自分から見る |
| 「見かける」にもなりやすい | 「〜を見る」に近い |
たとえば、
I looked out the window and saw him.
窓の外を見ると、彼が見えた。
となる。look は視線を向ける行為、see はその結果として対象を視覚でとらえることである。
notice|見えているものに「気づく」
notice は単なる「見る」ではない。何かの存在や変化に気づくことが中心である。
I noticed him standing by the door.
ドアのそばに彼が立っているのに気づいた。
彼の姿が視界に入っただけではなく、「あ、彼がいる」と認識したところまで含んでいる。
Did you notice her new haircut?
彼女の新しい髪型に気づいた?
この場合も、髪型を単に見たかどうかではなく、変化を認識したかどうかが問題になっている。
したがって、
see → 視界に入る
notice → 視界に入ったものに気づく
という違いになる。
spot|対象を見つける
spot は、視界の中から特定の対象を見つけるという感覚を持つ。
I spotted him in the crowd.
人混みの中で彼を見つけた。
人が大勢いる。その中から「あそこに彼がいる」と対象を見つけている。
She spotted a small bird in the tree.
彼女は木の中に小さな鳥を見つけた。
see が単純に「見えた」であるのに対し、spot には対象を識別して見つけるというニュアンスがある。
| see | notice | spot |
|---|---|---|
| 目に入る | 存在・変化に気づく | 対象を見つける |
| 視覚そのもの | 認識に重点 | 発見に重点 |
| 広い表現 | 「あっ」と気づく | 「いた!」と見つける |
この三つは、視覚から認識へ進んでいく流れとして考えると分かりやすい。
catch sight of|ふと姿を目にする
catch sight of は、人や物がふと視界に入ることを表す。
I caught sight of him across the street.
通りの向こうに彼の姿を見かけた。
see よりも「ふと姿が目に入った」という出来事が強く感じられる。
She caught sight of a deer in the woods.
彼女は森の中に鹿の姿を見かけた。
日本語の「ふと見かける」「姿を目にする」と非常に相性がよい表現である。
ただし、日常的な「昨日スーパーで彼を見かけた」であれば、単純に see を使うほうが自然なことも多い。catch sight of は、視界に入った瞬間を少し強調したいときに使いやすい。
glimpse|ちらっと見える
glimpse は、対象をほんの一瞬だけ見る・目にすることを表す。
I glimpsed him through the window.
窓越しに彼の姿がちらっと見えた。
名詞を使って、
I caught a glimpse of him.
彼の姿がちらっと見えた。
とも表現できる。
ここでは「彼がいた」というだけでなく、見えた時間が非常に短かったことが重要である。
catch sight of と catch a glimpse of の違い
似ている二つだが、焦点が少し異なる。
| catch sight of | catch a glimpse of |
|---|---|
| ふと姿を目にする | 一瞬だけちらっと目にする |
| 「見つけた・目に入った」に重点 | 「短時間しか見えなかった」に重点 |
| 見かける | ちらっと見える |
どちらも偶然視界に入る場面で使えるが、glimpse のほうが「一瞬」という感覚が強い。
「駅で彼を見た」で比べると違いが分かる
同じ「彼」を対象にすると、それぞれの違いが分かりやすい。
| 英文 | 日本語のイメージ | 何が中心か |
|---|---|---|
| I saw him at the station. | 駅で彼を見た・見かけた | 彼を目にした |
| I looked at him. | 彼を見た | 彼に視線を向けた |
| I noticed him at the station. | 駅にいる彼に気づいた | 彼の存在を認識した |
| I spotted him in the crowd. | 人混みの中に彼を見つけた | 彼を発見した |
| I caught sight of him. | 彼の姿をふと見かけた | ふと視界に入った |
| I caught a glimpse of him. | 彼の姿がちらっと見えた | 一瞬だけ見えた |
日本語では「見る」「見かける」「気づく」「見つける」など別々の動詞を使う。一方、英語でも see を中心としながら、視覚・認識・発見・偶然性・時間の短さによって表現が枝分かれしている。
「見かける」と「見つける」は違う
特に区別しておきたいのが「見かける」と「見つける」である。
駅で彼を見かけた。
駅で彼を見つけた。
前者は、彼がたまたま目に入ったという意味になりやすい。後者は、彼の存在を発見したことに重点がある。
英語でも、
I saw him at the station.
駅で彼を見かけた。
に対して、
I spotted him at the station.
駅で彼を見つけた。
では焦点が異なる。
たとえば待ち合わせで友人を探しているなら spot がよく合う。一方、買い物中に偶然友人の姿を目にしたのであれば see が自然である。
**see は「目にした」、spot は「見つけた」**という違いである。
「見る」の世界はどのようにつながっている?
ここまでの表現を概念として並べると、「見る」という行為がいくつかの方向へ広がっていることが分かる。
look
→ 自分から視線を向ける
see
→ 対象が視覚でとらえられる
notice
→ 見えたものの存在や変化に気づく
spot
→ 視界の中から対象を見つける
一方、「偶然どのように見えたか」という方向へ進むと、
see
→ 目にする
catch sight of
→ ふと姿を目にする
glimpse / catch a glimpse of
→ 一瞬だけちらっと目にする
となる。
つまり「見る」という世界には、少なくとも視線を向ける・視界に入る・気づく・見つける・ふと目にする・一瞬だけ見えるという異なる概念が存在しているのである。
まとめ
「見る」は、目で対象をとらえる非常に広い日本語である。一方、「見かける」は、人や物の姿を実際に目にすることを表し、特に偶然目にした場面で使われやすい。
英語では「見る」「見かける」をそのまま二つの単語に置き換えるのではなく、どのように対象を視覚でとらえたのかによって表現が変わる。
| 英語 | 覚え方・コアイメージ |
|---|---|
| look at | 自分から視線を向ける |
| see | 目に入る・目にする |
| notice | 存在や変化に気づく |
| spot | 視界の中から見つける |
| catch sight of | ふと姿を目にする |
| glimpse | 一瞬ちらっと見える |
| catch a glimpse of | 一瞬だけ姿を目にする |
「見かける=see」とだけ覚えると、notice や spot、catch sight of との違いが見えにくい。
「自分から見たのか」「偶然目に入ったのか」「存在に気づいたのか」「探して見つけたのか」「一瞬しか見えなかったのか」と考えてみるとよい。
日本語の「見る」「見かける」という言葉をいったん概念に戻してみることで、see / look / notice / spot / catch sight of / glimpse がそれぞれ切り取っている「見る」の世界が見えてくるのである。