「近い」を表す言葉
「近い」は、日常会話で非常によく使う言葉である。
「駅が近い」「家が近い」のように距離が短いことを表すこともあれば、「締め切りが近い」のように時間が迫っていることもある。「年齢が近い」「考え方が近い」なら、距離ではなく差が小さい・似ているという意味になる。
さらに日本語には、「近く」「間近」「身近」「至近」「近所」「近辺」「付近」など、「近い」から広がる多くの表現がある。
英語でも、これらを一つの単語だけで表すわけではない。
near、close、nearby、around、similarなど、何がどのように近いのかによって使う表現が変わる。
では、そもそも「近い」とはどのような概念なのだろうか。
「近い」と「ちかい」|表記による違い
「近い」には、「見る/観る」のような意味を分ける一般的な漢字違いはない。基本的には「近い」と書く。
ただし、文章によっては「ちかい」とひらがなで書くこともある。
| 表記 | 中心となる概念 | 使用例 |
|---|---|---|
| 近い | 距離・時間・関係などの隔たりが小さい | 駅が近い |
| ちかい | 意味は基本的に「近い」と同じ | もう春もちかい |
現代の一般的な文章では「近い」が基本である。
重要なのは表記よりも、「近い」という一語が空間だけでなく、時間・関係・類似性などにも広がっていることである。
「近い」に関係する日本語
まず英語を考える前に、日本語の「近い」の世界を整理してみよう。
| 日本語 | どのような「近さ」なのか |
|---|---|
| 近い | 二つのものの隔たりが小さい |
| 近く | 近い場所・近い位置 |
| 近所 | 住んでいる場所などの周辺 |
| 近辺 | ある場所の周囲 |
| 付近 | ある地点の周囲 |
| 周辺 | 中心となるものを取り囲む範囲 |
| 間近 | 距離や時間がかなり迫っている |
| 至近 | 距離が非常に短い |
| 目前 | すぐ目の前、または直前 |
| 身近 | 自分との心理的・生活的な距離が近い |
| 親しい | 人間関係が近い |
| 似ている | 性質などの差が小さい |
| 近似する | 数値・形・性質などがかなり近い |
| 迫る | 時間・距離などが縮まってくる |
| 隣 | すぐ横に位置する |
| そば | すぐ近くの場所 |
こうして見ると、「近い」は単なる物理的な距離ではない。
隔たりが小さい
という非常に抽象的な概念を中心としている。
「近い」の概念はどこへ枝分かれするのか
「近い」の世界は、「何と何の隔たりが小さいのか」で整理すると分かりやすい。
| 概念の軸 | 日本語表現 | 例 |
|---|---|---|
| 空間的な距離 | 近い・近く・そば | 駅が近い |
| 周囲の範囲 | 近所・近辺・付近・周辺 | 駅の付近 |
| 極端に短い距離 | 間近・至近・目前 | 至近距離 |
| 時間 | 近い・間近・目前 | 試験が近い |
| 人間関係 | 身近・親しい | 身近な人 |
| 性質・特徴 | 近い・似ている | 二つの考え方は近い |
| 数値・程度 | 近い・近似する | 100に近い |
| 年齢などの差 | 近い | 年齢が近い |
つまり、
近い=空間的にそばにある
だけではない。
より大きくとらえれば、
二つのものの間にある隔たり・差が小さい
という概念なのである。
「近い」と「近く」|性質を表すか、場所を表すか
「近い」は形容詞であり、基本的には「隔たりが小さい」という状態を表す。
- 学校は家から近い。
- 春はもう近い。
- 二人は年齢が近い。
一方、「近く」は「近い」の連用形として使われるだけでなく、名詞的に「近い場所」を表すことも多い。
- 駅の近くに住んでいる。
- 近くにコンビニがある。
「近い」は近さという状態、「近く」は文脈によって近い場所・範囲へと意味が広がるのである。
「近い」と「そば」|距離の性質か、近い場所か
「そば」は「近い場所」を強く意識させる言葉である。
「家が駅に近い」は、家と駅の距離が短いことを述べている。
「駅のそばに家がある」は、駅を基準としてそのすぐ近くに家が存在するという位置関係を表している。
- 病院は駅に近い。
- 病院は駅のそばにある。
また「そば」には、人との心理的な近さを感じさせる使い方もある。
- ずっと君のそばにいる。
単純な距離だけではなく、「寄り添っている」というニュアンスまで持つことがある。
「近い」と「間近」|かなり近いところまで迫っている
「間近」は、普通の「近い」よりも距離や時間がかなり縮まっている感覚が強い。
- 試験の日が近い。
- 試験が間近に迫っている。
前者は単純に時間的な距離が短いことを表す。後者は「もうすぐそこまで来ている」という切迫感がある。
空間にも使える。
- 富士山を間近で見る。
この場合は、「かなり近い位置から見る」という意味になる。
「近い」と「身近」|物理的な距離から生活・心理的な距離へ
「身近」は非常に興味深い言葉である。
必ずしも物理的に近い必要はない。
- 身近な問題
- 身近な人
- 身近な存在
- 身近な例
ここでの「近さ」は、自分の生活・経験・心理との距離が小さいことである。
たとえば世界のどこかで起きている環境問題を、自分の日常生活と結びつければ「身近な問題」として考えられる。
「近い」という空間的な感覚が、抽象的な関係へ広がった表現だと考えると分かりやすい。
「近い」と「親しい」|距離ではなく人間関係が近い
「親しい」も「近さ」の世界に属する。
- 親しい友人
- 彼とは親しい関係である。
ここで縮まっているのは物理的な距離ではなく、人と人との心理的・社会的な距離である。
「近い関係」と言うこともできるが、「親しい」には交流や信頼などを通じて関係が深いという意味が加わる。
そのため、
「家が近い」
からといって、
「その人と親しい」
とは限らない。
「近さ」が何についての近さなのかを区別する必要がある。
「近い」と「似ている」|差が小さいという近さ
「近い」は性質や考え方にも使える。
- 二人の考え方は近い。
- この色は青に近い。
- 正解に近い答えである。
この場合、空間的な距離は存在しない。
二つのものを比較したときの差が小さいのである。
「似ている」と重なるが、完全に同じではない。
「似ている」は共通する特徴を持つことに注目する。一方、「近い」はある基準上で差が小さいことに注目しやすい。
「青に近い緑」のような表現では、「青」と「緑」を連続した尺度の上に置いて考えている。
「近い」と「近所」|距離から地域へ
「近所」は単なる「近い」ではなく、自宅などを中心とした周辺地域を表すことが多い。
- 近所のスーパー
- 近所を散歩する。
- 近所の人
「近いスーパー」と言えば距離を評価しているが、「近所のスーパー」と言えば自分の生活圏内にある店という感覚が強くなる。
さらに「近所の人」では、場所を基準とした人間関係にも広がっている。
「付近」と「周辺」|一点の近くか、周りの範囲か
「付近」と「周辺」はどちらも「あるものの近く」を表す。
ただし、イメージには少し違いがある。
「付近」は、ある地点の近くを指しやすい。
- 駅付近で事故があった。
「周辺」は、中心となるものの周りに広がる範囲を意識しやすい。
- 駅周辺を再開発する。
どちらも厳密な境界線を持つ言葉ではないが、「近い」という一点間の距離から、「その周り」という面的な概念へ広がった表現である。
ここまでの日本語を概念で整理すると
| 概念 | 日本語表現 |
|---|---|
| 距離の隔たりが小さい | 近い |
| 近い場所 | 近く・そば |
| 生活圏として近い | 近所 |
| ある地点の周囲 | 付近・近辺 |
| 中心の周り | 周辺 |
| 非常に近い | 間近・至近・目前 |
| 時間が迫っている | 近い・間近・目前 |
| 自分との関係が近い | 身近 |
| 人間関係が近い | 親しい |
| 性質の差が小さい | 近い・似ている |
| 数値などの差が小さい | 近い・近似する |
ここで重要なのは、「近い」の中心を距離だけに限定しないことである。
空間、時間、人間関係、性質、数値などに存在する「隔たり」が小さければ、日本語では広く「近い」と表現できる。
英語では「近い」をどう表すのか?
では、英語では「近い」をどう表すのか。
日本語の「近い」が広い意味を持つのと同じように、英語でも状況によって表現を使い分ける。
| 日本語のイメージ | 英語 | コアイメージ |
|---|---|---|
| 距離が近い | near | 距離が短い |
| すぐ近く・密接に近い | close | 隔たりが小さい |
| 近くに・近くの | nearby | 近い場所にある |
| 隣接している | next to | すぐ隣 |
| 周辺に | around | あるものを中心とした周囲 |
| 人間関係が近い | close | 心理的な隔たりが小さい |
| 性質が近い | similar / close | 特徴・程度の差が小さい |
| 数値が近い | close to | 基準との差が小さい |
| 時間が近い | near / close | ある時点までの隔たりが小さい |
この表も「近い=near」という一対一の対応表ではない。
特に重要なのが、nearとcloseの違いである。
日本語ではどちらも「近い」と訳せるが、英語ではそれぞれの語が持つ概念の範囲が異なる。
near|空間・時間の距離が近い
nearのコアイメージは、基準となるものとの距離が短いことである。
特に空間的な位置関係を表す基本語である。
The station is near my house.
駅は私の家の近くにある。
時間にも使える。
The exam is near.
試験が近づいている。
さらに抽象的な基準にも広がる。
The temperature is near zero.
気温は0度近くである。
つまりnearでは、
A ←短い距離→ B
という関係が中心にある。
日本語の「近い」にかなり近い発想を持つ語だが、すべての「近い」をnearで表せるわけではない。
close|隔たりが小さい
closeも「近い」を表す重要な語である。
nearよりも広く、二つのものの隔たりが小さいという感覚を持つ。
My school is close to the station.
私の学校は駅に近い。
人間関係にも自然に使える。
We are close friends.
私たちは親しい友達である。
数値にも使える。
The answer is close to 100.
答えは100に近い。
このようにcloseは、
空間・関係・数値・程度などの「間が詰まっている」
という発想で理解すると分かりやすい。
nearが「近くにある」という位置関係を表しやすいのに対し、closeは二者間の隔たりそのものに注目しやすい。
nearby|近い場所にある
nearbyは「近くに」「近くの」という意味で使われる。
There is a supermarket nearby.
近くにスーパーがある。
形容詞として名詞の前にも置ける。
We went to a nearby park.
私たちは近くの公園へ行った。
ここがnearとの重要な違いである。
a nearby hotel
近くのホテル
は自然だが、
a near hotel
は通常、「近くのホテル」という意味では使わない。
nearbyは、ある基準から近い場所に存在するものを表現するときに便利な語である。
close to|「〜に近い」へ広がる表現
日本語の「〜に近い」に特に対応しやすいのがclose toである。
物理的な距離だけではない。
The hotel is close to the beach.
そのホテルはビーチに近い。
His answer was close to the truth.
彼の答えは真実に近かった。
She is close to her sister.
彼女は姉(妹)と親しい。
日本語ではすべて「近い」という一語でまとめられる。
英語のclose toもかなり広い範囲をカバーするが、文脈によって「位置が近い」「数値が近い」「関係が親しい」など意味が変わる。
around|「近い」から「周辺」へ
aroundはnearやcloseとは少し異なる。
中心となるイメージは周りである。
There are many restaurants around the station.
駅の周辺には多くのレストランがある。
ここでは「駅との距離が近い」というより、
駅を中心として、その周りの範囲にある
という見方をしている。
日本語の「周辺」「あたり」などを考えると、nearとの違いが理解しやすい。
「近い」から広がる英語表現
「近さ」をさらに細かく分けると、英語の世界も広がっていく。
| 概念 | 英語表現 | イメージ |
|---|---|---|
| 近い | near | 距離が短い |
| 密接に近い | close | 隔たりが小さい |
| 近くに | nearby | 近い場所に存在する |
| すぐ隣 | next to | 隣接する |
| 周辺 | around | 周りの範囲 |
| 近所 | neighborhood | 周辺の地域 |
| 親しい | close | 心理的距離が小さい |
| 似ている | similar | 性質が似る |
| ほぼ・もう少しで | almost / nearly | ある状態までの差が小さい |
| 接近する | approach | 距離が縮まる |
特に興味深いのがnearlyである。
It is nearly midnight.
もうすぐ真夜中である。
nearが「近い」という位置関係を表すところから、「ある状態・数値に近い」という発想へ広がっている。
「近さ」は空間から抽象世界へ広がる概念なのである。
「近い」の概念地図
「近い」の世界を大きく整理すると、次のようになる。
近い
│
├─ 空間の隔たりが小さい
│ ├─ 近い → near / close
│ ├─ 近く → nearby
│ ├─ そば → near / close to
│ └─ 隣 → next to
│
├─ 周囲に広がる
│ ├─ 近所 → neighborhood
│ ├─ 付近 → near / around
│ └─ 周辺 → around / surrounding area
│
├─ 時間の隔たりが小さい
│ ├─ 時期が近い → near / close
│ ├─ 間近 → near / imminent
│ └─ もうすぐ → nearly / almost
│
├─ 人との隔たりが小さい
│ ├─ 身近 → familiar / close
│ └─ 親しい → close
│
└─ 性質・数値の隔たりが小さい
├─ ~に近い → close to
├─ 似ている → similar
└─ ほぼ~ → nearly / almost
こうして見ると、near、close、nearby、similarなどは、ばらばらの英単語ではない。
その土台には、
「二つのものの隔たりが小さい」
という共通した概念がある。
そこから「何についての隔たりなのか」によって言葉が枝分かれしているのである。
まとめ|「何がどのように近いのか」を考える
| 「近さ」の種類 | 日本語 | 代表的な英語 |
|---|---|---|
| 空間的に近い | 近い・そば | near / close |
| 近い場所にある | 近く | nearby |
| すぐ隣にある | 隣 | next to |
| 周囲にある | 付近・周辺 | around |
| 生活圏として近い | 近所 | neighborhood |
| 時間的に近い | 近い・間近 | near / close |
| 心理的に近い | 身近・親しい | close / familiar |
| 性質が近い | 近い・似ている | close / similar |
| 数値が近い | 近い | close to |
| ある状態にもう少し | ほぼ・もうすぐ | nearly / almost |
「近い」を英語にするとき、最初から「近い=near」と覚える必要はない。
まず、
何と何が近いのか?
を考える。
場所なのか。時間なのか。人間関係なのか。数値なのか。性質なのか。
さらに、
単に距離が短いのか、すぐそばなのか、周辺なのか、差が小さいのか
を考える。
日本語の「近い」という大きな概念を先に理解すれば、near、close、nearby、around、similarといった英語が、それぞれ別々の暗記項目ではなくなる。
「どのような近さなのか」を考えることが、英語の使い分けを理解する入口になる。