「比べる」を表す言葉
「比べる」は、二つ以上のものを並べて、その違いや共通点を考えるときに使う身近な言葉である。
「二つの商品を比べる」
「去年と今年の成績を比べる」
「写真を見比べる」
「資料と実物を照らし合わせる」
「二人の能力を比較する」
どれも広い意味では「比べる」だが、実際に行っていることは少しずつ違う。
違いを見るのか。共通点を見るのか。優劣を決めるのか。一致しているか確認するのか。あるものを基準にして判断するのか。
さらに、「比較する」「見比べる」「対比する」「照らし合わせる」「競べる」など、日本語の中にもさまざまな表現がある。
英語でも「比べる=compare」と一語で終わるわけではない。compare、contrast、matchなど、何を目的として比べるのかによって表現が変わってくる。
では、そもそも「比べる」とはどのような概念なのだろうか。
まず日本語の世界から整理してみよう。
「比べる」と「較べる」「競べる」|表記による違い
「くらべる」は、通常「比べる」と書く。しかし、文脈によって「較べる」「競べる」と表記されることもある。
| 表記 | 中心となる概念 | 使用例 |
|---|---|---|
| 比べる | 二つ以上を並べて違いなどを見る | 二つの商品を比べる |
| 較べる | 比較して違いを明らかにする | 性能を較べる |
| 競べる | 優劣を競う | 力を競べる |
現代では「比べる」が最も一般的であり、幅広い場面で使える。
「較べる」は「比較」の「較」を使った表記であり、比較する意味を明確にできるが、一般的な文章では「比べる」で十分である。
「競べる」は、単に違いを見るのではなく、どちらが上かを競う意味が強い。ただし、現代では「力比べ」「腕比べ」のような語を除けば、「競う」と表現することも多い。
したがって、この記事では基本的に「比べる」を中心として考える。
「比べる」に関係する日本語
「比べる」の周辺には、比較する方法や目的の違いによって多くの表現がある。
| 日本語 | どのような「比べる」なのか |
|---|---|
| 比べる | 二つ以上を並べて違い・共通点などを見る |
| 比較する | 一定の観点から複数のものを比べる |
| 見比べる | 実際に見ながら複数のものを比べる |
| 対比する | 違いが分かるように並べる |
| 照らし合わせる | 二つの情報を突き合わせて一致を確認する |
| 比べ合わせる | 複数のものを比較して確かめる |
| 比較検討する | 比べたうえで判断・選択する |
| 優劣をつける | どちらが優れているか判断する |
| 競う | 能力・成果などの優劣を争う |
| 張り合う | 相手に負けまいとして競う |
| 匹敵する | あるものと同じ程度の水準に達する |
| 似ている | 比較した結果、共通点が多い |
| 異なる | 比較した結果、違いがある |
| 区別する | 違いを認識して分ける |
| 分類する | 共通点・違いをもとにグループに分ける |
| 評価する | 基準に照らして価値や程度を判断する |
このように見ると、「比べる」は単なる一つの動作ではない。
並べる → 違い・共通点を見る → 一致を確認する → 優劣を判断する → 選ぶ
という広がりを持っている。
「比べる」の概念はどこへ枝分かれするのか
「比べる」を中心にすると、いくつかの方向へ概念が枝分かれする。
| 比較の軸 | 日本語表現 | 何をしているのか |
|---|---|---|
| 基本的な比較 | 比べる・比較する | 複数のものを並べて見る |
| 視覚 | 見比べる | 見ながら違いを探す |
| 違い | 対比する | 違いが際立つように並べる |
| 一致 | 照らし合わせる | 二つが一致するか確認する |
| 優劣 | 優劣をつける・競う | どちらが上か判断する |
| 同程度 | 匹敵する | 比べた相手と同じ程度である |
| 判断 | 比較検討する | 比べた結果から選択する |
| 基準 | 評価する | 基準と比べて価値を判断する |
| 共通点 | 似ている | 比較した結果、共通点を認識する |
| 相違点 | 区別する | 比較した結果、違いを認識する |
特に重要なのは、「比べること」と「違いを見ること」は同じではないという点である。
比べた結果、
「似ている」
と分かることもあれば、
「違っている」
と分かることもある。
つまり「比べる」は、複数のものの関係を明らかにするための行為なのである。
「比べる」と「比較する」|日常的な行為か、整理された比較か
「比べる」と「比較する」は非常に近い。
二つのスマートフォンを比べる。
二つのスマートフォンを比較する。
どちらも自然である。
ただし、「比べる」は日常会話でも広く使われる一般的な言葉である。「比較する」はやや客観的・分析的な響きを持つ。
たとえば、
昔の自分と今の自分を比べてみる。
は自然である。
一方、
A社とB社の売上を比較する。
のようなデータを扱う場面では「比較する」がよく合う。
概念としては、
比べる → 複数のものを並べて関係を見る
比較する → 観点や基準を設けて違い・共通点を見る
と考えると分かりやすい。
ただし、両者には大きな意味の重なりがあり、常に明確に区別されるわけではない。
「比べる」と「見比べる」|比較するか、実際に見ながら比較するか
「見比べる」には「見る」が含まれている。
二枚の写真を見比べる。
二つのデザインを見比べる。
この場合、目の前にあるものを実際に見ながら違いを探している。
「比べる」なら、
東京と大阪の人口を比べる。
のように、直接目で見ていなくても使える。
したがって、
比べる → 広い意味で比較する
見比べる → 視覚的に並べて比較する
という違いである。
写真、服、デザイン、文字、表情など、視覚情報を比較するときに「見比べる」が自然である。
「比べる」と「対比する」|関係を見るか、違いを際立たせるか
「対比する」は、単に二つを比べるだけではない。
違いが分かりやすくなるように並べるという意味が強い。
都会の生活と田舎の生活を対比する。
光と影を対比させる。
「比べる」場合は、似ている点と違う点の両方を見ることができる。
一方、「対比する」では、異なる性質を並べることで、その違いを目立たせる。
たとえば、
「犬と猫を比べる」
なら、共通点も相違点も対象になる。
「犬の忠実さと猫の自由さを対比する」
なら、異なる特徴を並べて違いを際立たせている。
つまり、
比べる → 関係を見る
対比する → 違いを際立たせる
という違いである。
「比べる」と「照らし合わせる」|違いを見るか、一致を確認するか
「照らし合わせる」は、二つのものを比較して一致しているか確認することに重点がある。
名簿と申込書を照らし合わせる。
証言と記録を照らし合わせる。
地図と現在地を照らし合わせる。
単に「どこが違うかな」と見るのではない。
「この情報とこの情報は合っているか」という確認をしている。
したがって、
比べる → 違い・共通点などを見る
照らし合わせる → 一致・対応関係を確認する
という違いになる。
この「一致を確認する」という概念は、英語を考えるときにも重要になる。
「比べる」と「競う」|違いを見るか、優劣を争うか
「競う」は、比較そのものではない。
複数の人や物が、どちらが上かを決めるために争うことを表す。
二人が速さを競う。
技術力を競う。
「速さを比べる」なら、単に記録を比較するだけでもよい。
「速さを競う」なら、相手より速くなろうという競争が存在する。
つまり、
比べる → 複数のものの関係を見る
競う → 優劣を決めるために争う
という違いである。
「比べる」は観察・判断の行為だが、「競う」は当事者による行動である。
「比べる」と「評価する」|二つを並べるか、基準に照らして判断するか
「評価する」も比較と深く関係している。
しかし、必ずしも二つの対象を並べる必要はない。
この商品の性能を評価する。
この場合、「性能」という基準に照らして価値や程度を判断している。
一方、
AとBの性能を比べる。
なら、二つの対象の関係を見ることが中心である。
つまり、
比較 → AとBを見る
評価 → Aを基準・尺度と照らして見る
という違いがある。
実際には、
比較 → 評価 → 選択
という流れになることも多い。
複数の商品を比較し、性能を評価して、一つを選ぶ。
という流れである。
「比べる」と「区別する」|比較する行為か、違いを認識して分けるか
「区別する」は、比較した結果として違いを認識することに近い。
この二つの色を区別するのは難しい。
ここでは、二つの色をただ並べるだけではない。
「これはA、こちらはB」と違いを認識して分けることが問題になっている。
したがって、
比べる → 違い・共通点を調べる
区別する → 違いを認識して別のものとして扱う
という違いである。
比べることは、区別するための前段階になることがある。
ここまでの日本語を概念で整理すると
| 概念 | 日本語表現 |
|---|---|
| 複数のものを並べて見る | 比べる |
| 一定の観点から比べる | 比較する |
| 目で見ながら比べる | 見比べる |
| 違いを際立たせる | 対比する |
| 一致しているか確認する | 照らし合わせる |
| 優劣を争う | 競う |
| 同程度である | 匹敵する |
| 基準に照らして判断する | 評価する |
| 違いを認識して分ける | 区別する |
| 比べたうえで判断する | 比較検討する |
ここまでを見ると、「比べる」の中心には、
二つ以上のものを関係づけて見る
という概念がある。
そこから、
共通点を見る
違いを見る
一致を見る
優劣を見る
基準と比べる
比べて選ぶ
という方向へ枝分かれしている。
英語では「比べる」をどう表すのか?
では、英語では「比べる」をどう表すのだろうか。
最も中心となるのはcompareである。
しかし、「違いを際立たせる」ならcontrast、「一致するか確かめる」ならmatchやcheck againstなど、比較の目的によって表現が変わる。
| 日本語のイメージ | 英語 | コアイメージ |
|---|---|---|
| 複数のものを比べる | compare | 並べて関係を見る |
| 違いを対比する | contrast | 違いを際立たせる |
| 一致する・対応する | match | 二つが合う |
| 区別する | distinguish | 違いを認識する |
| 評価する | evaluate | 基準に照らして価値を判断する |
| 同程度である | rival / compare with | 比較できるほど同程度である |
| 基準と照合する | check against | 基準となるものと突き合わせる |
この表も「比べる=compare」「対比する=contrast」という完全な一対一対応ではない。
compareにも違いを調べる意味があり、contrastも比較という大きな概念の中に含まれる。
大切なのは、何のために二つを並べているのかを見ることである。
compare|二つ以上を並べて関係を見る
compareは、「比べる」の最も中心的な英語である。
コアイメージは、二つ以上のものを並べ、その関係を見ることである。
We compared the two products.
私たちはその二つの商品を比較した。
何を比べたのかは、この文だけでは分からない。価格かもしれないし、性能かもしれない。
Compare these two pictures.
この二枚の写真を比べてみなさい。
この場合も、似ている点と違う点の両方を見ることができる。
compareは「違いだけを見る」という意味ではない。
似ているところも、違うところも含めて比較するのが基本である。
This phone is cheaper compared with the old model.
このスマートフォンは旧モデルと比べて安い。
このように、あるものを基準にして別のものを見る使い方もある。
contrast|違いを際立たせる
contrastのコアイメージは、二つのものを並べ、その違いをはっきりさせることである。
The article contrasts city life with country life.
その記事は都会の生活と田舎の生活を対比している。
compareよりも「違い」に焦点がある。
たとえば、
Compare the two paintings.
なら「二つの絵を比較する」であり、似ている点も違う点も対象になり得る。
Contrast the two paintings.
なら「二つの絵の違いを対比して示す」という方向が強くなる。
したがって、
compare → 関係を見る
contrast → 違いを際立たせる
というイメージで整理できる。
compare and contrastという組み合わせがよく使われるのも、この違いがあるためである。
match|二つのものが合う
matchは、compareとは違い、比較する行為そのものよりも二つのものが合っている状態に焦点を当てる。
The numbers don’t match.
数字が一致しない。
His story matches the facts.
彼の話は事実と一致している。
日本語では「一致する」「合う」「対応する」などと訳される。
「照らし合わせる」という日本語との関係を考えると分かりやすい。
資料Aと資料Bを照らし合わせるのは、
compare / check
という行為であり、その結果、
match
しているかどうかを見る。
つまり、
compare → 比較する行為
match → 比較したものが合っている状態
という違いである。
distinguish|違いを認識して区別する
distinguishは、二つ以上のものの違いを認識して区別することを表す。
I can’t distinguish the two colors.
私はその二つの色を区別できない。
これは「色を比べられない」という意味ではない。
見ても違いが分からず、どちらがどちらなのか区別できないということである。
It is difficult to distinguish fact from opinion.
事実と意見を区別するのは難しい。
compareが比較という行為に焦点を当てるのに対し、distinguishは比較によって違いを認識することに焦点を当てる。
evaluate|基準に照らして評価する
evaluateは、何かを調べ、その価値・質・程度などを判断することである。
We need to evaluate the results.
私たちはその結果を評価する必要がある。
The teacher evaluated each student’s work.
先生はそれぞれの生徒の作品を評価した。
compareでは複数の対象の関係を見る。
evaluateでは、ある対象を基準や尺度に照らして判断する。
そのため、
compare → AとBの関係を見る
evaluate → Aの価値・質・程度を判断する
という違いになる。
商品選びなら、
compare → evaluate → choose
という流れも考えられる。
「比較する → 評価する → 選ぶ」である。
「照らし合わせる」を英語ではどう考えるか
日本語の「照らし合わせる」は、一つの英単語だけに対応させにくい表現である。
何をしているかによって英語が変わる。
| 「照らし合わせる」の場面 | 英語表現 | イメージ |
|---|---|---|
| 二つの情報を比較する | compare | 並べて見る |
| 基準と照合する | check against | 基準と突き合わせる |
| 情報を相互確認する | cross-check | 別の情報源で確認する |
| 一致するかを見る | see if they match | 合っているか確認する |
| 記録を照合する | verify / check | 正しいか確認する |
たとえば、
Check the names against the list.
名前をリストと照らし合わせて確認しなさい。
では、リストが基準になっている。
We cross-checked the information with another source.
私たちは別の情報源と照らし合わせて情報を確認した。
では、複数の情報源を使って確認している。
日本語の「照らし合わせる」を見たら、すぐに一つの英単語へ置き換えるのではなく、比較なのか、一致確認なのか、正しさの確認なのかを考えることが重要である。
「比べる」の周辺英語|differentiate・rival・measure against
「比べる」の概念をさらに広げると、次のような表現もつながってくる。
| 英語 | コアイメージ | 日本語で近い表現 |
|---|---|---|
| differentiate | 違いによって分ける | 区別する・差別化する |
| rival | 相手に匹敵する・競う | 競う・匹敵する |
| measure against | 基準・相手と比べて測る | ~と比べて評価する |
| weigh | 選択肢などを比較検討する | 比較検討する |
| liken | 似たものとしてたとえる | ~になぞらえる |
| rank | 順位をつける | 順位づける |
| benchmark | 基準と比較して評価する | 基準と比較する |
たとえばweighには、本来「重さを量る」という意味があるが、そこから選択肢の長所と短所を比べて検討する意味にも広がる。
We weighed the pros and cons.
私たちは長所と短所を比較検討した。
ここでは単に二つを眺めているのではなく、比較して判断しようとしている。
このように、「比べる」の先には「判断する」「評価する」「選ぶ」という世界も広がっている。
「比べる」の概念地図
「比べる」の世界を一つの地図として整理すると、次のようになる。
比べる
↓
二つ以上のものを関係づけて見る
↓
├─ 広く比較する → 比較する → compare
├─ 目で見ながら比べる → 見比べる → compare visually / compare
├─ 違いを際立たせる → 対比する → contrast
├─ 一致を確認する → 照らし合わせる → check against / cross-check
├─ 合っている → 一致する → match
├─ 違いを認識する → 区別する → distinguish
├─ 基準に照らして判断する → 評価する → evaluate
├─ 優劣を争う → 競う → compete / rival
└─ 比べたうえで決める → 比較検討する → weigh / compare
さらに大きく整理すれば、
対象A + 対象B
↓
比べる compare
↓
├─ 共通点を見る
├─ 違いを見る → contrast
├─ 一致を見る → match
├─ 違いを認識する → distinguish
├─ 価値を判断する → evaluate
└─ 判断して選ぶ → choose
となる。
compare、contrast、match、distinguish、evaluateを別々の訳語として暗記するよりも、「二つ以上のものを関係づけて見る」という中心概念から枝分かれした言葉として捉える方が理解しやすい。
まとめ|「何のために比べるのか」を考える
「比べる」は、二つ以上のものを並べて、その関係を見ることを表す広い言葉である。
しかし、比べる目的によって概念は変わる。
| 何をするのか | 日本語 | 代表的な英語 |
|---|---|---|
| 広く比較する | 比べる・比較する | compare |
| 視覚的に比較する | 見比べる | compare |
| 違いを際立たせる | 対比する | contrast |
| 情報を突き合わせる | 照らし合わせる | check against / cross-check |
| 二つが合う | 一致する | match |
| 違いを認識する | 区別する | distinguish |
| 基準から価値を判断する | 評価する | evaluate |
| 優劣を争う | 競う | compete |
| 同程度である | 匹敵する | rival / compare with |
| 比較して判断する | 比較検討する | weigh / compare |
「比べる」と聞くと、まずcompareが思い浮かぶ。
しかし、実際の言葉の世界では、
何と何を比べるのか。
似ているところを見るのか、違いを見るのか。
一致しているか確認するのか。
優劣を判断するのか。
基準に照らして評価するのか。
比べた結果から何かを選ぶのか。
という違いがある。
「比べる=compare」と一対一で覚えるのではなく、「何のために、どのように比べているのか」まで考えることで、compare、contrast、match、distinguish、evaluateなどの使い分けが見えてくるのである。