「良い」を表す言葉
「良い」は、日本語の中でも特に広い意味を持つ言葉である。
「良い本」
「良い人」
「良い天気」
「良い方法」
「良い成績」
「体に良い」
「都合が良い」
どれも「良い」だが、何をもって「良い」と判断しているのかは異なる。
品質が高いから良いこともあれば、能力が優れているから良いこともある。目的に合っている、正しい、好ましい、役に立つ、魅力的である、といった意味でも「良い」は使われる。
周辺には、
- 優れている
- 素晴らしい
- 適切
- 好ましい
- 有益
- 上等
- 立派
- 快適
など、多くの表現がある。
英語でも、これらすべてをgoodだけで表すわけではない。great、excellent、fine、nice、proper、suitableなど、「何がどのように良いのか」によって表現が変わる。
では、そもそも「良い」とはどのような概念なのだろうか。
まず日本語の「良い」の世界を整理し、そのあとで英語がこの世界をどのように分けているのか見ていこう。
「良い」と「善い」|同じ「よい」でも何が違う?
「よい」には「良い」と「善い」という表記がある。
| 表記 | 中心となる概念 | 使用例 |
|---|---|---|
| 良い | 品質・状態・結果などが好ましい | 良い天気、良い方法 |
| 善い | 道徳的・倫理的に正しい | 善い行い |
現代では「良い」が非常に広く使われるため、
良い行い
と書いても自然である。
一方、「善い」は「悪い」の反対として、特に善悪を意識させたい場合に使われる。
また「いい」は「よい」が変化した日常的な形である。
これはいい本だ。
これは良い本だ。
意味はほぼ同じだが、会話では「いい」の方が一般的である。
この記事では、これらを含む大きな概念として「良い」を考えていく。
「良い」に関係する日本語
「良い」の周辺には、何を評価しているのかによって多くの表現がある。
| 日本語 | どのような「良い」なのか |
|---|---|
| 良い | 基準から見て好ましい |
| 優れている | 他と比べて能力・品質などが上 |
| 素晴らしい | 非常に良く、強く感心する |
| 最高 | 最も高い評価を与える |
| 上等 | 品質や等級が高い |
| 上質 | 材料・製品などの質が高い |
| 立派 | 内容・態度・成果などが高く評価できる |
| 適切 | 状況・目的に合っている |
| 適当 | 条件や目的にうまく合っている |
| ふさわしい | 人・役割・場面などによく合っている |
| 好ましい | 望ましい方向にある |
| 望ましい | そうなることが期待される |
| 有益 | 利益や役立つものがある |
| 有効 | 目的に対して効果がある |
| 快適 | 心地よく過ごせる |
| 好調 | 状態や進み方が良い |
| 正しい | 事実・規則・基準などに合っている |
| 善い | 道徳的に正しい |
「良い」という一語の中には、品質・能力・適合性・有用性・快適さ・正しさ・道徳性など、異なる評価軸が含まれている。
「良い」の概念はどこへ枝分かれするのか
「良い」は評価を表す言葉である。
しかし、評価にはさまざまな基準がある。
| 概念の軸 | 日本語表現 | 何を評価しているか |
|---|---|---|
| 基本評価 | 良い | 全般的に好ましい |
| 品質 | 良い・上質・上等 | 物の質が高い |
| 比較 | 優れている | 他より能力・品質が高い |
| 強い評価 | 素晴らしい・最高 | 非常に高く評価する |
| 適合性 | 適切・ふさわしい | 状況や目的に合う |
| 望ましさ | 好ましい・望ましい | そうあることが期待される |
| 有用性 | 有益・役立つ | 利益や役目がある |
| 効果 | 有効 | 目的に対して効果がある |
| 快適性 | 快適・心地よい | 感覚的に気持ちよい |
| 正確性 | 正しい | 基準・事実に合う |
| 道徳性 | 善い | 倫理的に正しい |
つまり「良い」は一方向の尺度ではない。
「何を基準としてプラスに評価しているのか」
によって、さまざまな方向へ枝分かれしている。
「良い」と「優れている」|好ましいか、他より上なのか
「良い」は非常に広く使える。
このカメラは良い。
これだけでも、品質、性能、使いやすさなどを肯定的に評価していることが分かる。
一方、
このカメラは性能が優れている。
では、評価軸がより明確である。
「優れている」には、ある基準で他より上にあるという比較の感覚がある。
そのため、
良い → 広く肯定的に評価する
優れている → 能力・品質などが基準や他のものより上である
という違いになる。
「良い人」とは自然に言えるが、単に人柄が良いという意味で「優れた人」と言うと、能力や人格などについて高い評価を与える、より強い表現になる。
「良い」と「素晴らしい」|肯定的か、強く感心するほど良いか
「素晴らしい」は「良い」より強い評価である。
良い演奏だった。
素晴らしい演奏だった。
後者には、単に基準を満たしているだけではなく、話し手が強く感心したという気持ちも感じられる。
したがって、
良い → プラスに評価する
素晴らしい → 非常に高く評価し、感心する
という関係になる。
「最高」「見事」なども、この強い肯定評価の方向に広がる言葉である。
「良い」と「適切」|評価が高いか、目的に合っているか
「適切」は、単純に質が高いことを意味しない。
この方法は良い。
なら、方法全体を肯定的に評価している。
この方法はこの状況に適切である。
なら、その状況や目的に合っていることを評価している。
つまり「適切」には必ず何らかの基準がある。
服そのものの品質が高くなくても、
この服装は式典に適切である。
と言うことはできる。
したがって、
良い → 全般的に好ましい
適切 → 特定の目的・状況に合っている
という違いである。
「良い」と「ふさわしい」|条件に合うか、人や場面との調和か
「ふさわしい」は「適切」と近いが、人・立場・役割・場面との釣り合いを意識しやすい。
彼はリーダーにふさわしい。
これは、彼が単に「良い人」という意味ではない。
能力や性格などが、リーダーという役割に合っているのである。
結婚式にふさわしい服装
という言い方もできる。
「ふさわしい」は、対象と役割・場面との組み合わせがよいという方向へ「良い」が具体化した表現である。
「良い」と「好ましい」|今が良いか、その状態を望むか
「好ましい」は、「良い」と判断するだけでなく、その状態になることを肯定的に望むという意味を持ちやすい。
運動する習慣を身につけることが好ましい。
ここでは「運動習慣の品質が良い」と言っているわけではない。
「そういう状態になる方が望ましい」という評価である。
「望ましい」も近いが、「望ましい」はさらに「そうなることが期待される」という方向が強い。
「良い」という概念が、未来や理想の状態へ向かうと「好ましい」「望ましい」へ広がると考えられる。
「良い」と「有益」|評価が良いか、利益をもたらすか
「有益」は、何かが役に立つ、利益をもたらすことに焦点がある。
良い本だった。
なら、面白さ、文章、内容など、さまざまな意味が考えられる。
有益な本だった。
なら、その本から役立つ情報や知識を得られたことが中心になる。
つまり、
良い → 広い肯定評価
有益 → 利益・知識・役立つものを与える
という違いである。
「良い」と「有効」|品質が良いか、目的を達成できるか
「有効」は、目的に対して効果があることを表す。
良い方法
は広い表現である。
有効な方法
なら、その方法によって実際に目的を達成できる可能性が高いことを意味する。
たとえば、簡単ではない方法でも結果が出るなら「有効」と評価できる。
「良い」の中から効果という評価軸だけを取り出したものが「有効」だと考えると分かりやすい。
「良い」と「快適」|評価するか、心地よく感じるか
「快適」は、環境や状態について、身体的・心理的に心地よいことを表す。
良い部屋
なら、広さ、価格、設備、デザインなど、さまざまな評価が考えられる。
快適な部屋
なら、過ごしていて心地よいことが中心である。
したがって、
良い → 広い肯定評価
快適 → 感覚・環境として心地よい
という違いになる。
「良い」と「正しい」|好ましいか、基準に合っているか
「良い」と「正しい」は重なることもあるが、同じではない。
良い答え
は、内容が優れている、面白い、役に立つなど複数の意味を持てる。
正しい答え
なら、事実やルールに照らして間違っていないことを表す。
「正しい」は、一定の基準に一致していることが中心である。
そのため、「良いけれど正しくない」「正しいけれど良いとは思わない」という状況もあり得る。
ここまでの日本語を概念で整理すると
日本語の「良い」の世界をまとめると、次のようになる。
| 概念 | 日本語表現 |
|---|---|
| 広く肯定的に評価する | 良い・いい |
| 他より能力・品質が高い | 優れている |
| 非常に高く評価する | 素晴らしい・最高・見事 |
| 品質が高い | 上質・上等 |
| 目的・状況に合う | 適切 |
| 人・役割・場面に合う | ふさわしい |
| そうなる方がよい | 好ましい・望ましい |
| 利益や役立つものがある | 有益 |
| 目的に対して効果がある | 有効 |
| 心地よく過ごせる | 快適 |
| 事実・基準に合う | 正しい |
| 道徳的に正しい | 善い |
「良い」の本質は、単に一つの尺度で上にあることではない。
ある評価基準から見て、プラスの側にあることが中心にある。
その評価基準が何なのかによって、周辺の言葉が変わるのである。
英語では「良い」をどう表すのか?
では、英語では「良い」をどう表すのだろうか。
最も基本的なのはgoodである。
しかし、評価が強くなればgreatやexcellent、感じがよければnice、目的に合っていればsuitableやappropriateなど、英語でも「良さ」の種類によって表現が変わる。
| 日本語のイメージ | 英語 | コアイメージ |
|---|---|---|
| 良い | good | 基準から見て肯定的 |
| とても良い | great | 強く肯定的に評価する |
| 優秀・優れている | excellent | 非常に高い水準にある |
| 感じが良い | nice | 快く好ましく感じる |
| 目的に合う | suitable | 用途・条件に合っている |
| 適切 | appropriate | 場面・状況にふさわしい |
| 有益 | beneficial | 利益・よい効果をもたらす |
| 有効 | effective | 目的とする効果を生む |
ここでも「良い=good」という一対一の対応ではない。
日本語で「良い」と言える場面の中から、何を評価して「良い」と言っているのかを英語ではより具体的に表すことができる。
good|基準から見てプラスに評価できる
goodは「良い」を表す最も基本的な語である。
コアイメージは、何らかの基準から見て肯定的に評価できることである。
This is a good book.
これは良い本である。
何が良いのかは文脈によって変わる。内容かもしれないし、読みやすさかもしれない。
She is a good teacher.
彼女は良い先生である。
この場合も、教える能力、人柄、生徒への接し方などを総合して評価している可能性がある。
さらに、
Exercise is good for your health.
運動は健康に良い。
のように、「よい効果を与える」という方向にも使える。
goodは特定の種類の「良さ」に限定されない。だからこそ、日本語の「良い」と同じように非常に広く使えるのである。
great|強く「良い」と評価する
greatは、日常会話で非常によく使われる強い肯定表現である。
That’s a great idea.
それは素晴らしい考えだ。
We had a great time.
私たちはとても楽しい時間を過ごした。
goodよりも強く「いい!」と評価している感覚がある。
比較すると、
That’s a good idea.
それは良い考えだ。
That’s a great idea.
それは素晴らしい考えだ。
となる。
ただし、greatは単なる「goodの強化版」だけではない。
a great scientist
偉大な科学者
のように、人物の功績や重要性の大きさを表すこともある。
そのためgreatには、評価の高さ・程度の大きさという方向性がある。
excellent|非常に高い水準にある
excellentのコアイメージは、品質・能力・成果などが非常に高い水準にあることである。
She did an excellent job.
彼女は素晴らしい仕事をした。
The food was excellent.
料理は最高においしかった。
greatも強い肯定評価だが、excellentでは「水準の高さ」がより意識されやすい。
たとえば、
He is an excellent doctor.
彼は非常に優れた医師である。
と言えば、医師としての能力などを高く評価している。
日本語の「優秀」「優れている」「素晴らしい」などにつながりやすい表現である。
nice|感じがよく、好ましい
niceも日本語では頻繁に「良い」と訳される。
しかしgoodとは少し方向が違う。
niceのコアイメージは、人に快い・好ましい印象を与えることである。
It’s a nice day.
いい天気だ。
She is a nice person.
彼女は感じの良い人だ。
That’s a nice shirt.
それは素敵なシャツだね。
goodが広い意味での肯定評価なのに対して、niceは「感じがよい」「好印象である」という方向に寄りやすい。
したがって、
good → 評価として良い
nice → 感じとして良い
という違いを意識すると分かりやすい。
suitable|目的や条件に合っている
suitableは、単純に品質が高いことを意味しない。
コアイメージは、特定の目的・条件に合っていることである。
This room is suitable for small meetings.
この部屋は少人数の会議に適している。
部屋そのものが「素晴らしい」と評価されているわけではない。
「少人数の会議」という目的に合っているのである。
These shoes are suitable for walking.
この靴は歩くのに適している。
日本語では「良い」と訳せる場合もあるが、「適している」「向いている」と考えた方がsuitableの概念をつかみやすい。
「良い」の周辺英語|appropriate・proper・beneficial・effective
「良い」の評価基準をさらに細かくすると、別の英語表現が見えてくる。
| 英語 | コアイメージ | 日本語で近い表現 |
|---|---|---|
| appropriate | 場面・目的に合っている | 適切・ふさわしい |
| proper | 本来あるべき基準に合っている | 適切・正しい |
| beneficial | 利益やよい効果をもたらす | 有益 |
| effective | 目的とする結果を生む | 有効・効果的 |
| useful | 実際に役立つ | 役立つ・有用 |
| pleasant | 感覚・経験として心地よい | 快適・心地よい |
| favorable | 条件・評価などが好ましい | 好ましい・有利な |
| desirable | そうなることが望まれる | 望ましい |
| superior | 比較して上である | 優れている |
| fine | 問題がなく十分良い | 良い・大丈夫 |
たとえば、
Regular exercise is beneficial to your health.
定期的な運動は健康に有益である。
では、「健康に良い」の中でも「よい効果をもたらす」という部分に焦点がある。
一方、
This medicine is effective against the infection.
この薬はその感染症に有効である。
では、「目的とする効果が出る」という意味での「良い」である。
日本語ではどちらも広く「良い」と表現できるが、評価軸を具体化すると英語の違いが見えてくる。
「良い」の概念地図
「良い」を中心に、日本語と英語のつながりを整理すると次のようになる。
良い
├─ 広く肯定的に評価する
│ └─ 良い → good
│
├─ 強く肯定的に評価する
│ └─ 素晴らしい → great
│
├─ 水準が非常に高い
│ └─ 優れている・優秀 → excellent / superior
│
├─ 感じが良く好ましい
│ └─ 感じが良い・素敵 → nice
│
├─ 目的・条件に合っている
│ └─ 適している → suitable
│
├─ 場面にふさわしい
│ └─ 適切・ふさわしい → appropriate
│
├─ 利益をもたらす
│ └─ 有益 → beneficial
│
├─ 目的とする効果がある
│ └─ 有効 → effective
│
├─ 実際に役立つ
│ └─ 有用・役立つ → useful
│
└─ 心地よく感じる
└─ 快適・心地よい → pleasant
こうして見ると、good、great、excellent、nice、suitableなどは、横一列に並ぶ単純な類義語ではない。
「良い」という大きな評価概念から、品質・程度・印象・適合性・有用性・効果などへ枝分かれした先に、それぞれの英語がある。
まとめ|「何が、どのように良いのか」を考える
「良い」は非常に便利な日本語である。
その一方で、「良い」という一語の中に多くの評価軸が隠れている。
| 概念 | 日本語 | 代表的な英語 |
|---|---|---|
| 広い肯定評価 | 良い | good |
| 強い肯定評価 | 素晴らしい | great |
| 非常に高い水準 | 優れている・優秀 | excellent |
| 好印象・感じの良さ | 素敵・感じが良い | nice |
| 目的への適合 | 適している | suitable |
| 場面への適合 | 適切・ふさわしい | appropriate |
| 他より上 | 優れている | superior |
| 利益をもたらす | 有益 | beneficial |
| 効果がある | 有効 | effective |
| 実用的に役立つ | 有用 | useful |
| 心地よい | 快適 | pleasant |
| 望むべき状態 | 望ましい | desirable |
英語を選ぶときには、「良い=good」と考えて終わるのではなく、
何が良いのか。
品質が良いのか。
非常に高く評価しているのか。
感じが良いのか。
目的に合っているのか。
役に立つのか。
実際に効果があるのか。
と考えることが重要である。
「良い」という日本語をいったん概念に分解すると、good、great、excellent、nice、suitable、beneficial、effectiveなどが、ばらばらの単語ではなく一つの世界としてつながってくる。
「良い=good」と覚えるのではなく、「何が、どのような意味で良いのか」を考えることで、使う英語が見えてくるのである。